前回は、割竹式と連房式では奥壁を立てる位置が異なり、割竹式は奥壁の段が低く、火床が深い、みたいなところで終わっていたかと思います。ちょっとイメージしにくいかと思いますので、お忘れの方は前回の模式図をご参照ください。
さて続きですが、割竹式の奥壁は低いだけではなく、各焼成室による高さの差も小さいことが特徴です。一方、連房式の場合は、大風呂敷を広げれば、一つの窯でも部分によって、まったく段差のないところから、1mを超えるところまでかなりまちまちです。あくまでも、これは大風呂敷ですが。でも、こういう窯があっても一向に不思議でないのが、連房式ということです。実際に、まったく段差のない焼成室を持つ窯や、1m以上の奥壁高を持つ窯もあります。
では、割竹式はなぜ焼成室間の段差が小さく、しかも各焼成室による差も少ないのか。少し頭を捻ってみてください。そうです。天井も側壁もラインがまっすぐなので、床面もできるだけフラットにしておかないと、焼成室内の高さを均一にできないのです。しかも、深い火床に投入した薪を効率的に燃やそうと思えば、できるだけ低い位置に、下室の温座の巣が設けられている必要があります。したがって、いくら焼成室による差は少なくても、焼成室間の段が高くては意味がないわけです。
では、火床を浅くすればいい。当然、そういう疑念も抱かれるはずです。ところが、肥前の初期の窯は、天井までの高さが1mちょっとくらい。そうすると、天井や側壁のラインが直線なので、焼成室間の段が高いほど、火床の一方の端に設けられる出入口の高さが稼げなくなります。逆に、段差を小さくして火床を深くするほど、出入口の高さは確保できるわけです。
たとえば、小倉(北九州市)に、菜園場窯跡という上野焼の源流となった割竹式の登り窯があります。焼成室は4室と小規模ですが、一部天井部付近まで遺存しており、焼成室の規模自体は肥前と同程度です。この窯は出入口も残っているのですが、何と高さは60cmくらい。大人だと、ようやくしゃがんでゴソゴソと出入りできる程度です。もし、これで火床部分が深くなかったら、まず出入りは不能なのです。
一方、連房式の場合は団子状の焼成室で、天井部も膨らんでいるので、それほど出入口の高さを気にする必要がありません。それよりも、奥壁の段の高さに柔軟性を持たせることが重要なのですが、長くなるのでまた次回。(村)H30.1.12

図1 小溝上1号窯跡(有田町)〔連房式〕

図2 飯洞甕上窯跡(唐津市)〔割竹式〕