シリーズになってしまった常設展復旧作業に伴う一部展示替えですが、今回で最後になります。
今回ご紹介するのは、資料館エントランスに展示しています「有田の大イチョウ」の写真です。この写真は、写真家の榊晃弘様より「大イチョウのある地元有田で活用してほしい」との思いで、当館にご寄贈いただきました。黄葉の時期のイチョウをとらえた作品で、B1サイズの大きな写真です。
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大きな写真で迫力があります |
写真家である榊様は、故郷である九州・沖縄を中心に活動されています。写真集・写真展「装飾古墳」で昭和48年度日本写真協会新人賞を受賞され、写真集・写真展「眼鏡橋」は昭和59年度日本写真協会年度賞を受賞。さらに、平成3年度には写真展「歴史の町並み」で第16回伊奈信男賞を受賞されています。また平成29年度には、作品発表により消えゆく伝統ある町並みや暮らしの文化が歴史的、文化的な宝であることを示されたこと、また、福岡県美術協会の理事や理事長などを歴任し、美術分野の振興に努められたことが評価され、第25回福岡県文化賞を受賞されました。
今回寄贈された有田のイチョウの写真は、2019年11月26日から12月1日まで福岡市美術館で開催された「榊晃弘「巨樹」写真展」で展示されたものです。この写真展では、榊様が約10年かけて九州・沖縄を廻り撮影した、幹周が5m以上の巨樹の写真が展示されました。約10年間で約200本の巨樹を撮影されたそうで、写真展ではその中でも「生命力に溢れ、個性的で、存在感のあるもの」が展示されました。約200本の中から有田のイチョウが選ばれ展示をされたと聞くと、とても誇らしいです。
有田の大イチョウは、大正15年(1926)に国の天然記念物に指定され、樹齢推定1000年と言われています。樹高30.5m、幹周10.4mで、単幹でのイチョウとして日本で最大級の巨木です。文政11年(1828)に有田内山で起きた大火の際、この大イチョウが風を起こして根元の家を守ったと伝えられています。
このほかに、大イチョウは元々雌の木でしたが、雄の木に変化したとの伝説があります。かつて有田の人々は、イチョウの実である銀杏を取れるように、雌の木ばかり植えていました。しかし、雌の木ばかりだと実はなりません。ある日、この大イチョウが突然雄の木に変化をしていたそうです。有田の人々は不思議に思い、大イチョウのある弁財天社にお参りをしました。すると、大イチョウを雄の木にすることで周りの雌の木に実をつけさせ、それにより有田の人々を幸せにするために雄の木にしたとのお告げがありました。また、お告げでは、大イチョウの寿命は無限であるとも伝えられました。
どちらの伝説もイチョウが有田に幸せをもたらしており、有田の人々にとって大切な存在であることがわかります。大イチョウは1000年の間有田を見守り、有田の人々の幸せを祈り続けてきたのかもしれませんね。また、有田の人々も大イチョウを大切に守ってきたからこそ、現在も存在するのだと思います。この大イチョウのある泉山の弁財天社は、当館から徒歩5分くらいの距離にあります。写真と一緒にご見学いただき、今なお存在し続ける有田の大イチョウの生命力と、有田の人々を想い続けるまなざしを感じていただければと思います。(宮)R2.1.29