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有田の陶磁史(140)

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前回は、“熱残留磁気測定って使えね~!…かも?”って話しでした。でも、“いや、本当は考古学の方が間違ってんじゃないのっ?”ってご意見もあるかと思います。ごもっともです。ですから、人文科学的な方法である、考古学は本当に年代推定に使えるのか、というのが本日のお題です。

 

さて、天狗谷B窯で測定したC窯の熱残留磁気測定によるMagic年代は、標準年1815年(上限・下限年代:1775~1855年)という結果でした。では、現状の考古学の世界でC窯はいかに捉えられているかと言えば、B窯に引き続いて操業した1660年代前後の窯という推定です。よって、何とその差は100年から200年近くもあることになります。

精密機器が“ピピッ”と結果を出してくれる…、かどうかは知りませんが、そういうデジタルな自然科学の方法とは異なり、人文科学である考古学の年代推定の方法は実にアナログです。元になるのは、主に大量に蓄積された出土資料などなわけですが、ただひたすら根気と辛抱あるのみ。場合によっては人海戦術ができることもありますが、ほとんどは、収蔵コンテナ動かしつつ一人孤独に出土資料一つ一つとの格闘です。しかし、これにより今日では、有田焼の創業から近代に至る製品の変遷を、数年から20年程度の単位で連綿と組み上げた陶磁器編年というものができあがっているのです。

その原理については、まあ、考古学経験者なら説明の必要もないでしょうが、一見すると以前天狗谷窯跡の調査の話しの際に出てきた、危うい“様式論”と同じようにも見えてしまいます。でも、結果は同じのようでも、それが導かれるプロセスがちょっと異なります。

たとえば、A → □ → C → ○ → E → Fという技法の変化が出土資料から読み取れたとします。それでは、□と○には何の文字が入ると思いますか?アホらしいですね。当然、□がBで、○にはDが入ると思うでしょ。実は、これが様式論です。要素の近いものから順に並べるわけです。実は、こうした捉え方は、たとえば骨董業界など伝世品を扱う世界では、今でもごく当たり前のように使われています。ところが、ここには思いっきり大きな落とし穴があります。というのは、よく考えてみてください。この様式変化は、実はそう“仮定”できるだけであって、何らの“証明”も伴っていないことはお分かりでしょうか。物事が等しく徐々に変化するって、何か絶対的な自然の法則でもあれば別ですが、これまで生きてきた中で、残念ながらそういう法則にはお目にかかったことがありません。必ず、突然変異が起こります。でも、往々にして、それを証明と錯覚してしまいがちなのです。ここが危うさです。

一方で、考古学の場合は、主に層位学の方法を用います。厳密に言えば、古い時代を扱う考古学と新しい時代を扱う考古学では、学問の形成過程が違いますので、手順などに若干の違いはありますが、とりあえず、原理的には同じです。まず、最初に堆積した土層に含まれる技法がAだとして、3層目にC、5層目にはEが含まれていたとします。様式学的には1層目のAに続く2層目には当然Bがくるはずですが、現実は、そう甘くありません。実際に調べてみると、ある技法においては、2層目もAのまま続いていることもありますし、その上の3層めはBを挟まずにCとなり、4層目もDではなく、すでにFが見られることすらあるのです。新しい技法であるFがEより前にくるなんて信じられないかもしれませんが、外部ですでに完成された技術を導入した場合などは、突然新しい技術が挿入され、それが普及する過程で従来の技術と混じることで、時間軸上はより古い技術との中間的なものが後ろにきたりするのです。

また、陶磁器などは商品である以上時代の流行には極めて敏感で、常に変化しています。どの窯でも時代の流行は追いますので、同じ時代なら同じ要素の製品が作られることになります。そして各窯跡の土層で似た要素を持つ土層を探して組み合わせれば、必然的に変化の状況が分かるという理屈です。と言いつつ、恐ろしくイメージしにくい説明ですね。

例え話をします。ある窯では、1、2、3、4、5という順に各要素を持つ土層が堆積していたとします。しかし別の窯では3、4、5、6、7という土層の堆積だったとします。また別の窯では、5、6、7、8、9だったとします。そうすると、一致する数字のところ、つまり、同じ流行が窺える土層どうしで並べてみると、最初の窯では1〜5までの変遷しか追えなかったものが、3つの窯を組み合わせることによって、1〜9までの変化を追えることになるわけです。ただ、これは相対的な新旧関係を表す“相対年代”と呼ばれるもので、具体的に何年とかで示す“絶対年代(実年代)”とは異なります。出土資料をいくら穴の開くほど眺めていてもこの絶対年代は分かりませんが、この相対年代の編年に後付けの形で絶対年代を加えていくのが一般的な考古学的な方法です。

絶対年代を加える方法はいろいろありますが、たとえば、たまには実年代を記した陶片などが出土することがあります。それによって、それが出土した土層の実年代の概略がつかめるわけです。古文書等で窯の成立や廃棄の年代が分かる場合もあります。また、消費地の遺跡では、大火事や土木工事などの記録がある場合があります。そうすると、その火事や工事の際の土層は、記録された年代以前のものということになります。そのほか、伝世品に年号が記されている場合や、共箱に年号が書かれている場合もあります。その伝世品がどこの窯のどの層の製品と同じ要素を持つかということを調べればいいことになります。そのほかにも、とりあえず地道に実年代を捉えられるものなら何でもアリということです。

つまり、実年代の真偽はともかく、相対的な新旧を先にガチガチに固めてしまうのが、考古学的な方法というわけです。

(村)R2.7.17

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