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有田の陶磁史(189)

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前回は、まったくの妄想ですが、実は泉山の発見というか、その際の陶石の採掘には、古木場地区にあった金山の労働者が活用されたのではって話をしてました。全部で100人くらいいたと言いますから、多くは有田から去ったとしても、閉山直後の寛永5年(1628)年のはじめ頃にはブラブラしていた人もいたはずです。借金で番所の役人に、柵の中から出してもらえない人もいたみたいですし。ということで、とりあえず妄想ではありますが、石の山を掘れる体制はできあがりました。

 ただ、泉山の陶石は、天草陶石と比べて粘土分が少ないため、水簸後数年は寝かせないと使える粘土にならないと言います。土を腐らせるわけです。だから、泉山を発見してから、すぐに本格的磁器生産っていうのは難しいかもしれません。もっとも、製作実験程度の量なら、自然に水簸された粘土が取れたかもしれません。実際に、現在でも泉山の磁石場内に入ると、あちこちの水たまりの中に自然に粘土ができあがっていますから。

この土作りと並行して、白川の天狗谷に登り窯造りも行われていたはずです。天狗谷が選ばれたのは、水と薪の調達に便利だったからだと言います。生活にももちろん必要ですが、やきもの作りには当然不可欠ですから。

 確かに、天狗谷窯跡の周辺は山だらけですので、薪は豊富にありそうです。それに窯のすぐ下方には白川川が流れてますから、水の方もバッチリということですが、この水に関して言えば、湖とか湧き水じゃなくて、川でないとダメです。ついでに、適度に狭い川が最適です。と言うのは、陶石の粉砕には、川に設置した唐臼(水臼)が使われますが、川をせき止める必要がありますので、あまり川幅が広いと水を引き込む施設を別途造らないといけなくなり、大がかりになってしまうのです。

 ついでに、ほかにも必須の条件があり、泉山からそう遠くないことはもちろんですが、生活空間がコンパクトにまとめられるってことですね。その点、天狗谷窯の周辺は、最近はすっかり宅地化されましたが、以前は少しばかりの田んぼや畑もありましたので、食料の方も何とかなりそうです。

 コンパクトな生活空間って、特に後に内山と呼ばれる一帯では、意外と重要なことなんです。と言うのは、内山の多くの場所は、ほぼ自給自足が不可能な場所です。ですから、後に町が大きくなって以後でさえ、主要な生活物資は、町の外から供給されていたくらいです。ですから、天狗谷窯ができた当時は、まだそんな供給体制ができてるはずもありませんから、すべて自前で何とかできる場所である必要があったのです。ですから、1630年代以前の早い時期にできた内山の窯場は、中樽地区(小樽1号窯跡、小樽2号窯跡)にしろ、稗古場地区(稗古場窯跡)にしろ、岩谷川内地区(猿川窯跡)にしろ、同様にすべて内山地区の中でも田んぼや畑のあった場所なのです。

 と言うことで、新しく窯を築くのに好条件の天狗谷が選ばれたわけですが、この窯については、以前さんざん書いたように思いますので、詳しい説明ははしょります。

 とりあえず、ここで新しく発見された泉山の原料をどうしたら使いこなせるのか、いろいろ試されたわけです。土の性質も場所によって違いますし、耐火度もそれぞれです。もちろん、ボディー用の陶石は熱に弱くては困りますし、逆に、釉薬用の陶石は熔けなくては困ります。一般的に、泉山陶石は天草陶石と比べると耐火度が低いと言われます。有田では、今はほとんど天草陶石を使ってますので、本焼きは1,300℃ほどで焼くらしいのですが、江戸時代は、それよりも低い温度で、じっくり時間を掛けて焼いていた可能性が高いと思います。焼き上がる温度ならば、低めの温度でも長く焼けば、熱カロリー的には同じですから。実際に、理科学的分析をすると、昔のモノは芯まで火が通っていますが、今のモノは芯がよく焼けていないそうです。これって、ステーキといっしょですね。昔のやつがウェルダンで、今のやつが強火で焼いたレアみたいな。

 ところで、この登り窯の築窯ですが、意外に早くできるようです。一昨年でしたか、有田の陶芸作家の方が築炉業者に頼むのではなく、自力で塗り壁式の割竹式登り窯を築かれてました。数名程度の少人数での作業でしたが、数ヶ月後には完成どころか、製品を焼けるまでになってました。ですから、大々的に造れば、きっとそれほどかからないでしょうね。

 ということで、金ヶ江三兵衛さんたちは、数年かけて泉山の陶石を使って、磁器専業を行うことに自信を付けたんじゃないでしょうか。ここから、有田の窯業が一気に発展を迎えることになりますが、それについては、次回からお話してみたいと思います。(村)

 

写真 天狗谷窯跡周辺

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