前回は、“鍋島”には厳密には2つの種類があって、一つが“製品様式上の鍋島”、もう一つが“生産制度上の鍋島”って話をしてました。それで、本質的には“御用品”=“鍋島”が本来の“鍋島”であって、“鍋島”=“鍋島様式”はどの時期にでも適用できるとは限らず、別途それが“御用品”であることを証明できて、はじめて成り立つものってことでした。つまり、“生産制度上の鍋島”は常に成り立ちますが、“製品様式上の鍋島”は、それが御用品として使われたことの証明があってはじめて“鍋島”と言えるってことです。ねっ、ややこしいでしょ。“鍋島様式”の製品を、ふつうは“鍋島”って省略しますしね。
そんで、そんな話を最初にしつこくやったのには、当然訳があります。岩谷川内御道具山時代に、“製品様式上の鍋島”は存在しないからです。つまり、すべて“生産制度上の鍋島”ってことになります。それじゃー何が“鍋島”なんか分かんないじゃんってとこですが、でも、世間ではちゃんとこれがそうよってもんが決められてます。
オタッキーな方なら当然ご存じのことと思いますが、例の皿の裏面に文様のない松ケ谷手(https://www.umakato.jp/kyuto/049.html)なんて呼ばれているタイプです。こちら(https://tenpyodo.com/dictionaries/nabeshima/)のサイトでは、その特徴も記されていますので、これが世の中の一般的な捉え方なんだと思います。その特徴を簡単に示しておくと、素焼きしていること。歪みのない完璧な磁器。裏面に高台銘がない。高台内に目跡がない。畳付を三面削り出して、砂が熔着するのを防ぐ(もっと正確に言えば、畳付の両脇は斜めに削ってないといけないようですが)、みたいなことが掲げられてます。
な~るほど、素焼きしてるもんや歪みのないもんなんかは別にほかの種類でも珍しくないし、高台3方向削りも祥瑞手には珍しくないですが、高台銘や目跡がないことなんかは、後に開発される鍋島様式の特徴と一致してますね。それに、たしかに猿川窯跡で一番作りが上手なのが、そういうタイプですから、ごもっともかもしれませんね。
ということで、一件落着って言いたいところですが…、でもね~、残念ながら、これには決定的な穴があるんだな~。分かります…??せーかいは…!!じゃー誰がこういう特徴を持つものが御用品だったって決めたのかってことです。たとえば、江戸城(汐見多聞櫓台石垣地点)の発掘調査でも、たしかに松ケ谷手は出てますが、祥瑞手ほかいろんな窯のもんが出土してるんですよ。その中に御用品があるって仮定しても、じゃ、松ケ谷手だけが御用品って決めたのはなぜってなりませんか??
つまり、エビデンスがまったくないってことです。ウソだと思ったら調べてみてくださいね。結構これが定着してるみたいなんで、あちこちに活字化されてますから。でも、それが“鍋島”である証拠が示されている記述って500%ありませんから。
ついでに言っとけば、御用品の場合、素焼きも硬く焼かれているっていう話もあります。たしかに、猿川窯跡から、松ケ谷風の素地で硬く焼締まったもんが数点出土してます。でもね~??なんでそれで御用品だから特別な素焼きをしたって話に直結するんですかね~??硬く素焼きして何か意味あんの…?まるで理解不能…。つーか、その素地って、本当はわざわざ御用品の結び付けなくても、単に失敗品をサヤ鉢の蓋として二次的に転用しているので、硬く焼けてるだけなんですけどね。ましてや、その中の1点は一部に薄瑠璃釉まで掛かってますから、素焼きですらないって落ち…。釉薬掛けるのは、本焼きの時ですからね。
ってことで、本日はここまで。(村)