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有田の陶磁史(219)

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 前回は、ざっくりと肥前磁器の様式別の特徴についてお話ししました。なぜざっくりかと言えば、本来この定義そのものがざっくりとしたもので、ほぼ厳密な定義がないからです。なので、厳密に言えば、学術用語と言うよりも、当たりをつけるくらいの用語とでも言うべきでしょうか。だって、“古九谷様式”や“柿右衛門様式”って言えば、ひと言で製品のだいたいのイメージは伝わるでしょ。考えてみたら分かりますが、この“●●様式”を使わずに製品を説明しようと思ったら、なかなか大変です。何なら試しに一度やってみてください。恐ろしくくどい説明になりますので…。

 とは言え、こういう様式分類ができあがった昭和30年代以降、平成のはじめ頃までは、今よりはずっと学術用語っぽい捉えられ方をしてましたけどね。

 というのは、当時と今の様式分類は、まるで別物だからです。当初の様式分類は、“初期伊万里様式”→“古九谷様式”→“柿右衛門様式”→“古伊万里様式”と、時間軸上で単純に変化するものだと考えられていました。ただし、これは民窯の話なので、“鍋島様式”は入ってきません。つまり、このどれかの様式に、すべての製品を押し込めていたわけです。

 なぜ、そういうことができたのかと言えば、伝世品による研究が主体だったからです。伝世品には、ある種のクセがあります。特徴ってことですね。それは、かなり高級品に偏って伝世するということです。生産品全体の大半を占める、その他大勢の部類は残りにくいのです。だって、高級な品物って大切に扱うでしょ。たとえば、今でも柿右衛門や今右衛門の器と100均の器では、無意識にでも扱い方が違ってくるはずです。

 磁器のはじまった17世紀というのは、生まれた子どもがさまざまな体験を通じて成長するのと同じように、切磋琢磨しながら次々と新しい様式を創出することによって発展した歴史です。成長の段階段階に新しい様式が完成するってことです。これが、様式が変化したカラクリです。

一つの製品は、別の視点で捉えると、無数の技術・技法の塊ということもできます。つまり、最新様式の製品というのは、まだ付加価値の高い新しい技術・技法の塊ということなのです。当然、付加価値の高い技術・技法がより多く使われていますので、高級品になるという仕組みです。これは、今の工業製品でもいっしょです。

 話を元に戻しますが、伝世品は高級品が残りやすい。つまり、その時期、その時期の、最先端の技術が詰まった製品が残りやすいということになります。たとえば、仮に一つの器に使われた技術・技法が10の要素で構成されているとします。いや、本当は無数にあるんですよ。仮にです。それで、高級品というのは、その中の10すべてとか9つとかが新しい技術・技法で構成されるわけです。しかし、逆に最下級品では、10の要素のすべてが従来の技術で構成され、その中に新しい技術・技法が組み込まれていないということなのです。

 さて、ここで頭の整理をしてみましょう。ということは、どういうことかと言えば、伝世品で研究すれば、高級品が中心になりますので、新しい要素が詰まった製品どうしの比較になりますので、それぞれの製品は比較的パキッパキッと各様式に割り振ることが可能だということです。別な捉え方をすれば、伝世品で研究している限り、各時期の製品は、パキパキと各様式に割り振れるようにしか見えないわけです。ですから、前に記したように、各様式が時系列で一列に並ぶような様式変化として捉えられたわけです。これが、もともとの様式の捉え方です。もちろん、現実的には大量に生産されたその他大勢の中にも、中には伝世するものもあります。でも、あくまでも伝世品の中では少数派ですから、多少は目をつむって、エイヤーッてより雰囲気の似たどこかの様式に割り振ってしまえばノープロブレムなわけです。(村)

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