文字サイズ変更 拡大標準
背景色変更 青黒白

有田の陶磁史(221)

最終更新日:

 前回は、もともと美術史が研究の主体だった頃の磁器の様式分類は、“初期伊万里様式” → “古九谷様式” → “柿右衛門様式” → “古伊万里様式”と順序よく順々に変化するというものでした。しかし、昭和の終わり頃から急に主戦場が考古学に変わり、ちょっとアレレな展開になりそうな予感ってとこまででした。

 さて、美術史から考古学に主戦場が変わると、何が変わるんでしょうか?主に研究上取り扱う資料が、伝世品から出土品に変わるってことです。ここまでは、簡単ですね。では、伝世品が出土品に変わるといったい何がどう変わるんでしょうか?

 前回までも、さんざんヒントは書いてましたが、そうです、伝世品は高級品が残りやすいってことです。一方、窯跡の出土資料は、高級品ばかり出土するわけではありません。まあ、ほとんど高級品ばかり焼いている窯もないわけじゃありませんが、逆に、下級品ばかり焼いている窯もあるわけです。だって、高級品ばっか使いたがるお金持ちもいるでしょうが、まだ磁器という素材に付加価値のあった時代ですから、磁器が使えること自体をありがたがる層も確実にいるわけです。生産地としては、その中間も含めて、大切なお客さんであることには違いないわけです。とにかく、磁器というものを使う人たちのすべての需要を独占できれば、それに越したことはないので。独占できれば、市場を操れますし。

 そもそもいい磁器とは何か?高級で、美しくて、手の込んだものとか…?まあ、そういう捉え方もありますが、少なくとも生産者側から言えば、売れて儲かる磁器に決まってるでしょ。生計を立てる手段として生産してるわけですから。高級品か下級品かは関係ありません。これは今でもいっしょです。

 そもそも、高級品とは言っても、江戸時代の有田に陶芸作家って概念はありませんので、芸術品ってわけじゃありませんよ。じゃなくて、当時最先端の工業製品と考えるほうが理解が容易です。ですから、高級パソコンとか、高級テレビくらいに考えていただければ、当たらずしも遠からずってことです。

 じゃあ、こういう工業製品の値段の違いは…、パソコンやテレビなら画面の大きさもあるでしょうが、同じ大きさならば、まだ開発費の元の取れていない最先端の技術が使われているとか、高価な材料が使われているとか、いろんな理由はあるでしょうが、もろもろ含めて大きいのは製造原価の違いということですね。もちろん、今なら、ブランド力やイメージなども大きな付加価値の一つで、これがあれば値崩れも起こしにくいし、価格競争に巻き込まれる可能性も低くなります。ただ、江戸時代の有田の場合は、有田全体が一つのブランドで、原則的に個々の生産者がブランド力を持つことはありませんでした。

 話がそれてしまいましたが、まとめると、伝世品は高級品に偏るけれど、窯跡の出土資料などは、有田全体の窯を通観すれば、てっぺんから底辺までまんべんなく揃うということです。しかも、伝世品からは各時期の生産動向は窺えませんが、出土資料では、どの時期には、どういう生産の傾向があるのかなどという全体像まで分かるのです。

 じゃ、それがどういう意味があるのかということですが、これについてはまた次回。(村)

このページに関する
お問い合わせは
(ID:42)
ページの先頭へ
有田町役場 文化財課

〒844-0001 佐賀県西松浦郡有田町泉山一丁目4番1号

電話番号:0955-43-2678

FAX番号:0955-43-4185

© 2024 Arita Town.