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有田の陶磁史(222)

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 前回は、研究の主体が美術史から考古学に変わったことで、研究上取り扱う資料の主体が、伝世品から発掘品に変わったこと。窯跡の発掘資料を使うことで、高級品のみではなく、一つの時期に生産した製品の全体像が分かるようになったって話をしてました。続きです。

 これまでに、伝世品のように高級品に偏っている資料では、最先端の技術がより多く使われやすいため、各様式の典型に近く、様式の変化が分かりやすいということを話しました。ということは、発掘調査資料では数量的に圧倒的に多いその他大勢モノは、逆に、様式の変化が分かりにくいということです。どういうことか…。

 一つのモノは、別の視点で見れば、無数の技術・技法の塊って言ったと思います。たとえば、伝世品の場合は、10要素があるとすれば、10や9の要素が最新様式の要素である場合が多いということです。ところが、下級品に近づくほど、その要素が少なくなり、旧様式の要素の割合が高くなるのです。それどころか、もっと古い時期の様式の要素すら残る場合も珍しくありません。たとえば、相対的に新しい要素が少ないほど、開発にかかるコストも少なくなりますし、習熟度も高いわけですから、生産効率も上がるわけです。もちろん、使われる材料も低廉なものになりますし、その精製度も違うわけです。その他もろもろ…。

 ここでは様式を構成する要素の数を単純化するため10としましたが、実際には、無数にあります。しかも、この無数の技術・技法の組み合わせが、高級品はこれとこれ、中級品はこれとこれ、下級品はこれとこれみたいに単純に組み合わせが決まっているのなら楽でいいのですが、実は、厳密に言えば、すべてのモノがそれぞれ異なった組み合わせを持っているのです。もちろん、同じ窯の製品どうしでは近く、異なった窯の製品では差異が大きいのが一般的です。

 そうすると、どういうことが起こるかと言えば、最初は出土品を一生懸命各様式に割り振ろうとするのですが、とうとう最後はそれを断念するしかなくなります。だって、そもそも各様式を構成する要素がすべて厳密に規定されているわけじゃないので、分けようがないのです。

 じゃあ、おおむね構成要素が多い様式に、単純に割り振ったらいいのでは?ってご意見もあろうかと思います。でも、よく考えたら分かりますが、そうすると、もともとの様式分類のキモである、時期とともに様式が変化するという根本が崩れるのです。だって、同じ時期だとすべて同じ様式のはずでしょ。つまり、時間軸だけを、様式変化の尺度にするのでは不充分だということです。

 まだまだ問題は、山ほどあります。たとえば、各様式の成り立ちの違いです。後日詳しく説明しますが、“初期伊万里様式”と“古九谷様式”は、外部から新しい技術・技法を導入して成立した様式です。しかし、“柿右衛門様式”や“古伊万里様式”は有田の内部における技術改良で成立した様式なのです。

 すると、たとえばいくら唐津焼っぽい技術で作られていても、磁器質ならば、それは唐津焼の構成要素にはなく、磁器の要素の一つですから、“初期伊万里様式”ということになります。古美術業界の一部の方々が熱狂する“初源伊万里”なるものなどが、その一例でしょうか。また、スタイル的には初期伊万里様式であっても、色絵製品であれば“古九谷様式”になります。“初期伊万里様式”の構成要素に、色絵の技法はないわけですから。でも、ってことは、“初期伊万里様式”のスタイルで、片方は染付製品、一方は色絵製品で、同じような絵が描かれていたりすると、別様式に分類にしなくちゃいけないってことですから、ややこしくなりますよね。しかも、窯跡の出土製品だと、まだ上絵は付いてないわけですから、白磁の場合なんかはどっちに分けるのってことになるでしょ。このように、各様式に分類するのって、そう単純じゃないんです。まあ、とは言え、とりあえず外部からの技術導入で成立した様式の場合は、旧来の様式の技術・技法にない要素が加わっていれば、新旧の要素の多寡に関わらず、新様式に割り当てる必要があるのです。

 まだまだ長くなりそうなので、今日はこのへんでやめときます。(村)

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