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有田の陶磁史(225)

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 前回も、ほんの少ししか進みませんでしたが、“初期伊万里様式”や“古九谷様式”には、“一つでも新要素が加われば、原則、新様式に区分しないといけないの法則”が成り立ち、一方、“柿右衛門様式”や“古伊万里様式”の場合、見分け方の法則を見つけるには、“金太郎飴の謎”を解く必要があるってところで終わってました。どこまでが“柿右衛門様式”で、どこからが“古伊万里様式”なのか?自己技術の改良や洗練でじわじわ変わってくるので、特に切れ目というものがないからです。

 

 じゃ、たとえば権威ある大先生方とかは、どういう基準で分けてたと思いますか?いや、今ではないですよ。かつて、様式を一列に並べていた時代のことです。少なくとも、今から30年くらい前まではそうでしたね。ネタばらしするのもどうかと思いますが、何を隠そう、以前、伝世品の“エイヤーッ理論”ってのをご説明いたしましたね。要素の多そうな方に区分するってやつです。意外かもしれませんが、だいたいそんなもんだったんです。でも、実際には、全部要素の数を数えられるわけじゃないので、あくまでも感覚的ですけどね。

わたしも、むかしむかしまだピカピカのヒヨッコの頃、この法則を知らなくて、なぜ分けられるのだろうって不思議で不思議で、ほんと自分の力のなさを痛感したものでした。何しろ大先生方がおっしゃるわけですから、まさか当たるも八卦当たらぬも八卦じゃないですが、単なる“エイヤーッ理論の法則”だとは思わないじゃないですか。

 試しに、かつて大先生方が実際に分けられていたモノの例を、一つご紹介します。たとえば、Photo1は暗めの赤絵具を多用するもので“古九谷様式”でした。一方、Photo2は緑・黄・青などを多用するもので“柿右衛門様式”とされていました。なるほど、“エイヤーッ理論の法則”上は、何となく見た目は、そんな風にも見えますね。特に、当時はまだ伝世品主体の研究が王道でしたから、各様式から外れるものがあるという捉え方は一般的ではなかったので、どこかに納める必要があったのです。というわけで、“柿右衛門様式”や“古伊万里様式”のような金太郎飴的な様式は、“エイヤーッ理論の法則”で分けてたというのが正解です。

 ただし、これが伝世品ならすんなりと受け入れられるところでしょうが、発掘調査の出土資料が増えてくると、困ったことが起きてきたんです。それは、出土品には伝世品にはない、よけいな(?)発掘調査時の付帯情報が付いているからです。というのは、何を隠そう、先ほどの大先生方が異なる様式と判断された二つの色絵鉢は、実は同じ赤絵屋さんの工房遺跡で、同時期の土層から出土したものなんです。つまり、同じ赤絵屋さんで、同時に、“古九谷様式”と“柿右衛門様式”の製品が作られていることになるんです。これが出土品の持つ、付帯情報ってやつの一端です。怖いでしょう。でも、一瞬、理解に苦しみませんでしたか?だって、理論上は“古九谷様式”から“柿右衛門様式”って時間軸上で段々変化しないといけないわけですから。でも、そうは言っても、同時期にしても多少時間差はあるのでは?なんて考えてもいけません。もちろん、何時間差とか何日差とかはナシですよ。というのは、何と、この二つの色絵の素地である白磁鉢も、同じもんなんです。さすがに、“古九谷様式”と“柿右衛門様式”の素地が同じじゃまずいでしょう。

 そうすると、さて困りました。“古九谷様式”と“柿右衛門様式”の共存はどう解釈したらいいでしょうか?

 ただ、一見するとずいぶん見た目が違いますが、Photo2の方の赤の圏線などをよく見て下さい。Photo1の鉢と同じ色調の暗めの絵の具が使われてますから。内面の文様なんかもよく似てますよね。当然ですよね。同じ時期に同じ赤絵屋で作られたもんですから。ならば、様式の違いなんて仰々しく考えないで、単に使われている絵の具の配色が違うだけって解釈したらいかがでしょう。その方がすっきりするでしょ。様式差ではないということです。

 ここでは理解しやすいように、Photo1とPhoto2みたいな極端に違うものでご説明しましたが、発掘調査資料って、この中間がいくらもあるんですよ。穴が開くほど眺め続けても、ゼッタイに分けられませんよ。ですから、“エイヤーッ理論の法則”では出土品は必ずしも分けられないのです。

 ということで、前に話しましたが、この様式分類ってもんは、単に製品のイメージを簡単に伝えるために使うくらいのもんで、決して学術用語には適さないことはご理解いただけたでしょうか。

 でも、でも、まだ触れてない様式がありますよね。あの格調高き“鍋島様式”だけは違う、はっきり分けられるとおっしゃる方もいらっしゃるでしょうから。まあ、たしかに分けることは難しくないものは多いですね。でも、それはそれで、今も大混乱の中で使われているのをご存じですか。次回はそれをご説明することにします。(村)

 

Photo1:色絵菊唐草文鉢

Photo2:色絵竹雲花散らし文鉢

 

 

 

 

 

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