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有田の陶磁史(228)

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 前回は、「生産制度上の鍋島」「製品スタイル上の鍋島」は切り分けないといけないという実例をお話する予定でしたが、鍋島藩窯の仕組みみたいなことを話してたら終わってしまいました。今日は、本当に進めます。

 さて、大川内山の鍋島藩窯跡では前回説明したように、ごく一部の御用品とその他大勢の一般の民窯製品が焼かれています。あっ、そうだ。脱線ついでに、本論に入る前に、大川内山ならではの切ない現実についてちょっとお話ししとくことにしましょうか。実は、将軍家などへの贈答品は、例年11月に献上することになっています。その他大名とか公家とかにも贈られますので贈答が11月に集中するわけではありませんが、それにしても、将軍家でも一度に80いくつ程度、その他は一人数個か多くても数十程度ですので、一説によれば年間5,031個とも言いますが、数量的にはそれほど多いわけではないのです。

 そうすると、どういうことが起こると思いますか?鍋島藩窯では御用品はごく一部で、その他大勢は御助け窯だったという話をしました。御用品だけでは窯が焚けないので御助け窯が必要なわけですが、御用品もそんなにしょっちゅう必要なわけじゃないので、長期間焼かないこともあるわけです。そうすると、御用品を焼かないということは御助け窯も焼けないということなので、御手伝い窯焼きはたちまち生活に窮することになるわけです。だから、御用窯の焼成が少ない年は、御手伝い窯焼きだけで焼かせてって願い出たりしています。まあ、これは至極まっとうですね。_

 でも、何とも奇抜なことを考えついた窯焼きもいまして…。というのは、御手伝い窯焼きだけじゃ食えないので、何と酒屋を兼業させてって願い出た人がいるんです。窯焼きの仕事がない時には農業でもやらせてってくらいは分かるのですが、まさか窯焼きと酒屋の兼業とは何の脈絡もないですね。これも一品一品の利ざやの少ない下級品生産の山の悲哀というところでしょうか。むしろ、他より大量に生産しないと勘定が合わないわけですから。と、また脱線しました。元に戻ります。

 鍋島藩窯跡の製品は、最上と最下の組み合わせですから、それらを見分けるのは一目瞭然です。ぜんぜん質が違いますから。で、その最上の御用品品質の製品の中にも、実は少量ですが、高台の低いいわゆる木盃形ではないものが含まれるのです。つまり、スタイル的には“鍋島様式”とは言いにくいものですので、こうしたものは、「生産制度上の鍋島」ではあっても、「製品スタイル上の鍋島」ではないわけです。ということは、“鍋島様式”でないことを根拠に、贈答用ではないとは言えないわけです。

 これはちょっと困りますね。もっと違う例も示すつもりでしたが、また脱線したので、それについてはまた次回ということにしときます。(村)

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