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山辺田遺跡の出土品(35)

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前回まで、ロクロ成形した円形の古九谷様式の染付小皿を2点ご紹介しました。今回と次回も古九谷様式の染付小皿を取り上げますが、ロクロ成形や型打ち成形した円形のものではなく、押し型成形の変形皿です。
以前記しましたが、山辺田の窯場の古九谷様式の製品は、色絵磁器(色絵素地を含む)が主体で染付製品は多くありません。また、当然ながら、窯場を問わず生産品はロクロ成形の製品が一般的で、押し型成形の製品の割合は高くありません。ということは、数少ない古九谷様式の染付皿の中で、その中でも数少ない押し型成形の変形皿となれば、かなり珍しいものであることがお分かりいただけるかと思います。

という説明の中で、いくつかややこしい用語がでてきましたので、皿の成形方法の違いについて、ちょっと補足説明しておくことにします。「ロクロ成形」は文字通りロクロを使用して成形したもので、有田では、かつては足で蹴って回す蹴ロクロが使われていました。回転するロクロで作るので、当然、できあがりの皿の形状は丸く、高台も丸くなります。

ただ、ロクロで成形したものの中にも、変形皿がないわけではありません。「型打ち成形」するものです。これは、ロクロ成形した丸い皿の生地を、型打ち車(有田ではロクロのことを車と呼びます)の上に乗せた土型に高台側が上を向くようにすっぽり被せて、片手で型打ち車を回しながら、型打ち棒で叩いて変形に加工する方法です。ただし、型打ち成形したものがすべて変形皿になるわけではなく、丸い土型を用いて輪花状の形に加工したり陽刻文を入れるだけであれば、できあがりは丸皿のままということになります。使う土型が方形や変形の場合に、変形皿になるということです。

一方で、ロクロを一切使わない変形皿の成形方法もあり、こちらは「糸切細工」と呼ばれ、土型の用法としては「押し型成形」や「型押し成形」という区分になります。押し型成形は、皿類に限った成形方法ではなく、人形類や瓶類、水滴をはじめさまざまな器種に使われています。皿型に作った土型に直接粘土を押し当てて成形するもので、この方法で作られた丸皿もなくはありませんが、通常は、変形皿を作るために用いられています。ただ、この方法の場合は、紅皿など小さなものなら一体化して型から起こしますが、通常の大きさの皿だと高台が作れません。そのため、高台部は別に用意した粘土紐を貼り付けて製作します。
粘土紐から高台を作るということは、どんな形の高台でもできるということです。ということは、型打ち成形のように丸い高台の皿から作るよりも、はるかに多様な形の皿ができるということを意味しています。この糸切細工は、古九谷様式の技術の中ではじまる技法ですが、これによって型打ち成形で作っていた時期と比べ、変形皿の量もかなり増加しています。

ということで、図1の本日の染付変形皿ですが、半分弱程度しか残っていませんが、押し型成形で葉形にしており、その形に合わせて変形の高台を作り出しています。内面には、下側の地面の上に建物と樹木文を描き、上方には帆掛け船を描いた、いわゆる山水文が配されています。また、外面胴部には、草文が数方向に見え、高台外側面には線描きの櫛目文が巡らされています。

古九谷様式の製品には、いくつかのタイプの中国・景徳鎮磁器の影響が反映されており、この染付皿の場合は、おそらく古染付の影響の強いタイプと推測されます。高台側面に施文するようなルールも、源流は古染付や祥瑞にあります。こうした古染付風のタイプは、景徳鎮の古染付自体がそうであるように、どの窯場の製品でも、あまり造形のキリリとしたものは少なく、ややボテッとして野暮ったい感じのものが多くを占めます。特に山辺田の窯場の場合は、前々回にご紹介した染付草花文の丸皿のように初期伊万里的な要素が製品内に混在するものが多く、この変形皿の場合も、そうした面も粗雑さを感じる要因の一つとなっているのではないかと思います。(村)H29.6.16

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図1 染付山水文葉形小皿

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