現代の日本では、やきものを分類する場合、一般的には「土器」、「陶器」、「炻器」、「磁器」に分けられているようです。いったいその違いはなにか、まずは、日本では超有名な辞典である「広辞苑」(第五版)から抜粋してみることにします。
【土器】釉薬を用いない素焼の器物。
【陶器】土器のさらに進歩した焼物で、素地が十分焼き締らず吸水性があり、不透明で、
その上に光沢のある釉薬を用いたもの。
【炻器】素地がよく焼き締り、吸水性のない焼物。焼成の火度が磁器よりも弱く、多くは
有色で不透明。気孔性のない点で陶器と区別する。
【磁器】素地がよく焼き締ってガラス化し、吸水性のない純白透明性の焼物。
さすがに要領よくまとめてありますが、それぞれの特徴をまとめると、次のようになるでしょうか。
【土器】吸水性あり、透光性なし、低温焼成、有色、無釉
【陶器】吸水性あり、透光性なし、低温焼成、有色、施釉
【炻器】吸水性なし、透光性なし、高温焼成(磁器より弱いが気孔性はない)、多くは有色
【磁器】吸水性なし、透光性あり、高温焼成、純白透明性
つまり、それぞれのやきものの胎土等の性質や焼成温度などによって、分けられていることが分かります。多くの方は、この広辞苑の説明で“納得!”、というところではないでしょうか。ただ、そんな何の変哲もないようなことを、ここで取り上げるはずもありませんが。
たとえば、「炻器」ってどんなやきものでしょうか?きっと具体的にイメージしようにも、多くの方には明確な姿は思い浮かばないのではないかと思います。唐津焼はモノにもよりますが、高温焼成で吸水性もないので、広辞苑的には「炻器」のはずです。しかし、通常は「陶器」に分類されています。また、実際には陶器質の原料を使った磁器もあれば、磁器質の原料を使った陶器すらあります。さらに、近世では、透光性のない磁器などむしろ普通です。いかがでしょうか。ということは、少なくとも広辞苑的分類基準では、近世のやきものは区分できないことになります。
これは、現代と近世では、やきものの区分そのものが異なることが大きく関係します。もともと現代の基準で作られていないものを、無理やり分けようにもうまく当てはまるはずがありません。近世の分類では、やきものは「土器」と「陶器」の二分割で、「炻器」や「磁器」はありませんでした。正確に言えば、「磁器」という言葉はありませんが、陶器の一種として「南京焼」、「南京白手の陶器」や「染付」、「青磁」、「赤絵」など、磁器自体の認識はありました。しかし、「炻器」については、日本ではもともとその概念すらなかったのです。そのため、日本人には「炻器」の明確なイメージは希薄ですし、唐津焼は「炻器」ではなく「陶器」なのです。
では、なぜ現代のような分類に変化したのか。もちろん、段々自然に「炻器」や「磁器」という区分が生じてくるはずもありません。ということで、次回はこのやきものの分類の仕組みについて、記してみたいと思います。(村)H29.7.21
図1 登り窯の同じ焼成室で焼かれて熔着した磁器と陶器
陶器と磁器に焼成温度の差はないことが分かる