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有田の陶磁史(353)

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   前回は、何の話をしてたんでしたっけってことで振り返りをしていたところで終わってました。本日は、その続きです…かな?

1650年代中頃から60年代初頭頃の間の窯業の大再編によって、有田の窯業地がすっかりシャッフルされて、“内山”、“外山”という概念ができて、山ごとに生産する製品ランクが割り当てられたってことでした。

 これでどうなったかって言えば、有田皿山という単位では、磁器に関しては、一番上ランクから一番下ランクまで、がっちり需要を押さえる体制が完成したってことです。ご要望に合わせて、どんなもんでも揃えられますよって具合です。しかも、重要なのは、それぞれの山に専門分野を割り当てたことで、それぞれに最適化された窯業のスタイルを築くことができるわけですから、効率性も習熟度もバッチリって寸法です。これって、なかなか他の産地ではマネできまへんで…。

 もっとも、当時は他には有田ほど大きな磁器の産地はないわけですから、マネしようにもできるわけではないんですけどね。でも、先々というか、近い将来は分かりませんから。実際に、有田だって、当初の弱小零細の新興産地だったもんが、磁器を完成させて一発大逆転したわけですからね。だから、他の産地がもしかしたら、グイグイ力を付けてくるかも知れないわけで…。これって、IT業界で言えば、MicrosoftとAppleみたいなもんかな?長くAppleユーザーやってる方ならご存じだと思いますが、一度潰れかけてMicrosoftの支援受けたくらいですからね。まさか、今のようなMicrosoftを凌駕するような企業に成長するとは、当時は誰も思ってませんよ。だからMicrosoftも手を差し伸べたんでしょうけど。スティーブ・ジョブズが戻ってきてから、スケルトンのiMacを皮切りにiPod、iPhoneで急成長しましたから。

 それはさておき、特に当時の窯業のスケール的には、波佐見なんかが一番ヤバそうですね。実際に、17世紀前半までの波佐見は、ある意味、有田と真っ向勝負の方向で動いてたんです。青磁なんかだと、むしろ有田よりも良質ですしね。

 以前どこかでお話ししたかと思いますが、肥前の窯詰め技法は、李朝と同様にランク別になってて、一番いいものはサヤ鉢に入れて焼くってことに触れたかと思います。そうなんですよ。実は、17世紀前半段階だと、波佐見にもフツーにサヤ鉢ってあるんですよ。つまり、上級品も焼いてたってことです。だから、もともと有田と目指す方向に大きな違いがあったわけじゃないんです。要するに、あとは規模の違いってことです。

 でも、イケイケドンドンしようとしてた矢先に、波佐見にありゃ?って思わせることがおきたんですね。それが有田で古九谷様式が開発されたことです。従来の初期伊万里様式のスタイルで上から下まで全部作るって約束事が、一変してしまったわけで、上が古九谷様式、下が初期伊万里様式という様式によるランク差が生じたんです。つまり、従来通り上物を作ろうと思えば、古九谷様式の製品を作らないといけないし、色絵の技法も開発しないといけないわけですよ。古九谷様式の製品を作ろうと思えば、それを構成する、あるいは付帯するさまざまな技法とかも手に入れないといけません。たとえば、ハリ支えの技法とかもその一つかな。そういう細かい部分も含めてってことです。ただし、色絵については、波佐見でも採集品が一つありますので、まったく試みなかったとまでは言い切れませんが、少なくとも商業ベースに乗せられるくらい、つまり、成功はしてないってことです。

 そんで、さらに止めを指したのが、例の喜三右衛門さんち由来の南京赤絵系の古九谷様式の技術です。白くて薄手で、素焼きまでしてますからね。まだまだ甘々だとは言え、この時期にはすでに藩が窯業に介入はしているわけですから、初期の頃ほどには、陶工の人とかが、藩を越えて自由に行き来するってこともできなくなってましたし。これが有田の中で普及すると、The Endってことです。いや、波佐見でも多少はあがいてはいるんですよ。同じようなものを作ろうと試みてはいるんですが、でも、やっぱ同じようにはできないんだな~。

 話がだいぶ大回りしてしまいましたが、そうすると、波佐見はいきなり大胆な方向転換するんですね。それが下級品に絞った生産ってことです。だから、先ほどの話の続きですが、17世紀後半になると、いきなりサヤ鉢がなくなるんです。これって、客観的に、上物からは撤退ってことが分かるわけです。

 いわば総合デパート化路線は諦めて、専門店化に舵を切ったってことです。そうしないと、逆に窯業全滅の危機すらあるわけですよ。だって、有田は総合デパートではあるものの、内実は、山ごとに製品ランク別に特化させて、それぞれの専門性を高めてるわけですから。なので、有田の中でもターゲットを絞って狙い撃ちしないと、とてもじゃないけど手が回らない。有田以上に習熟度と効率性を上げないと勝てないですから。それで、下級品生産の山との競争に絞ったってことです。そういう集約型にすれば、逆に生産規模においては波佐見の方が上ですから、互角以上の戦いができるって戦術ですね。

 何だか、今日はなぜこういう話なったのか我ながら不明ですが、波佐見と有田の関係について長々とお話ししてしまいました。まあ、こんな話、活字化されてるもんなんてないですからご容赦を…。と言うことで、本日はここまで。(村)

 

 

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