領域への浸食、自然の力による浸食は、途々にではあるが、元あったものを良くも悪くも新しい”色”へと変化させていく。
人の心も、病いも、考えも周りの影響により少なからず変化が起こるのであればそれもまだ”新色”への”浸食”の始まりとして、出来るだけシンプルにキレイな色で表現してみようと思いました。
第118回 産業陶磁器部門 出品者、招待作品
出品者、招待作品一覧(こちらからダウンロードできます。)(PDF:122.6キロバイト)
第118回 産業陶磁器部門 審査評
2022.4.7
第118回 有田国際陶磁展 産業陶磁器部門 審査評
審査員長 崔 宰熏
いまだに進行形であるコロナパンデミックやロシア・ウクライナ戦争、地球気候変化の問題などは私たちの生命と健康、暮らしを脅かし、生活全般に大きな変化をもたらしている。作り手は持続可能なものづくり、循環サイクルに対する必然性に社会的な責任感を持ち、システム導入に努力している。
このような背景の中、第118回有田国際陶磁展は44名の出展者による48点の作品が応募された。前回や前々回に比べると出展数は減少し、コロナ禍の影響で海外出展が制限されたが、出展された多くの作品は時代的な状況を直視した上で高いレベルのクオリティーを感じさせるものだった。また、伝統の技術や表現を時代に合うよう昇華させた作品からは有田焼400年の歴史の上に相応しいスピリッツを感じた。
経済産業大臣賞に輝いた《氷青磁組鉢》は、鉢の側面に施してある無数の縦線彫りが霧の湖に現れる木立のような幻想的なイメージを感じさせ、静けさの中にしっかりとした存在感を醸し出す作品であった。端正なフォルムを持ち、表情豊なマットの青磁釉の濃淡が優しく、見る人に清らさと安らぎまでを与える作品であることが評価につながった。
佐賀県知事賞の《sizqu》は、皿の縁側にイッチンを用いて繊細に描かれた滴模様が特徴的で、模様周りの褐色と青磁色の釉の混じり合いは滴を通してみる景色を連想させる。皿全体の淡い青緑調の色とも調和し美しく豊かな表情を与えてくれる。実際料理を載せて使って見たいと思わせる作品であった。
有田町長賞を受賞した《素麺鉢セット》は、伝統的な染付と色絵技法を用いて描かれた金魚の姿と余白のバランス、そして外側の躍動感ある表現のコンビネーションが綺麗な作品であった。鉢の縁部分に描かれた青海波の描き方にも丁寧さが伝わっている。
技術の競争と知識の増進を目的として始まった有田国際陶磁展が技術発展のみに留まらず、使い手の生活を見つめ、デザイン思考を通して創造性を広げ、用の美を審美的に提案することで、暮らしを豊かな方向へと導く発表の場として常に発展していくことを期待している。
また、この有田国際陶磁展を通して有田のやきものづくりの伝統を継承するとともに若手作家たちが互いに刺激をし合い、ものづくりに増進することができる事を心から願っている。
第118回 産業陶磁器部門 審査員
第118回産業陶磁器部門審査員 (50音順・敬称略)氏名 | 所属 | 備考 |
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今井 朗子(いまい あきこ) | 株式会社世界文化社 執行役員 | 学習院大学文学部国文学科卒業。 世界文化社入社後、「家庭画報」編集部配属。その後、女性誌、ウエディング誌の編集長を経て、2004年より2009年まで「家庭画報」編集長をつとめる。
現在は出版事業に加え、企業や団体のオウンドメディア運営及び企業や団体が資産として保有する史資料のデジタルアーカイブ事業も担当。
2017年より、全国漆器協会主催「全国漆器展」の美術工芸品部門にて審査員をつとめる。 |
内木 雅子(うちき まさこ) | 株式会社大文字 代表取締役 | 埼玉県出身。 料理研究家のアシスタントなどを経て、父の経営する株式会社大文字へ入社。2014年より現職。
大文字は、良質でかつ手頃な価格で提供できる普段使いの器を、ブランド名や作家名に頼ることなくセレクトした和食器専門店。
器をはじめて購入するような若者層から、飲食店やコーディネーターなどのプロまで幅広い顧客を持つ。 |
崔 宰熏(チェ ゼフン) | 愛知県立大学 美術学部 デザイン・工芸科 陶磁専攻 教授 | 学歴:愛知県立芸術大学美術研究家デザイン専攻修了 職歴:株式会社INAX総合技術研究所サステナブル研究室 株式会社LIXIL WTJデザイン・新技術統括部モノづくり工房 専門:プロダクトデザイン・陶磁器デザイン 活動:2002年第6回国際陶磁器展美濃陶磁器デザイン部門グランプリ受賞、2014年第10回開催時には審査員となる。日本陶磁器デザイン協会に所属し、大学院研究室では人間の生活と陶磁器デザインの中で一人ひとりの持つ素質と個性に合わせた指導で、産地との連携や産学共同の取組みなどによるリアルなものづくりを覚え、デザインできることを目指す。また、国際交流や発表の場を通して異なる文化や考え方を持つ人々と疎通し、自分の世界観を広げ将来の目標をつかむきっかけとなる指導を行っている。 |